原動力は孤独と欲望。行動原理は税金の節約。じっさい、通俗を絵に描いたような人生だと、人には思われるだろう——僕自身、何度もそう思ったものだ——けれども、そのとき、手帳をひっくり返していた僕には、そんな人生ですら、とても美しいものに思われたのである。しかも、そんな人生ですら、もはやとりもどせなくなってしまった。でも、人生とは、元来そんなものなのかもしれない。時は過ぎ去るのだ。われわれはみな——もし幸運に恵まれれば——自然に年老いて死んでゆく。そして、過去にこだわっているかぎり、幸運は指の間からすり抜けていくのである。

「透明人間の告白」H・Fセイント著 高見 浩訳